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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)9623号 判決 1961年1月25日

原告 破産者若杉弘破産管財人 小峰長三郎

被告 久米田辰己

右訴訟代理人弁護士 関口聡

主文

被告は原告に対し金十五万円とこれに対する昭和三十五年十二月三日以降完済までの年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

(一)訴外若杉弘は訴外第一ピーエス株式会社外一名よりの破産の申立に基き昭和三十五年三月二十九日東京地方裁判所において破産宣告を受け(同庁昭和三十四年(フ)第二五四号、同年(フ)第三三一号事件)、原告はその破産管財人に選任されたが、

(二)右破産宣告前の昭和三十五年二月六日若杉弘はその代理人弁護士厚地法人に対し破産申立をなした前示債権等に対する破産手続の進行延期を求めるための示談金名義で提供すべき資金とした、金二十万円を預託し、

(三)右預託を受けた厚地弁護士は、預託の趣旨に従い、破産手続の延期方につき先づ破産申立債権者の一人である前記第一ピーエス株式会社の承諾を求めるための交渉をしたが、同会社においては右交渉に応諾する意思がないことが明らとなつたので、厚地弁護士は右交渉を打切り、昭和三十五年二月十六日若杉弘の代理人である被告に、預託を受けていた前述の二十万円を返還した。

(四)ところで被告は厚地弁護士より返還を受けた預託金二十万円のうち、金五万円を若杉に引渡したのみであるから、原告は若杉の破産管財人として被告に対し残余の未引渡分十五万円とこれに対する本件訴状が被告に到達した日の翌日である昭和三十五年十二月三日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。ものであると述べた。

被告は通常の方式による適法な呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず(期日の変更申請もしてなかつた)答弁書その他の準備書面も提出しない。(口頭弁論終結後に、弁論期日の朝、被告より訴訟委任を受けたという被告訴訟代理人より口頭弁論再開の申立書を差出したけれども、被告自身の期日懈怠については首肯するに足る何等の事由も記載はない。)

理由

原告主張事実は、被告において明に争わないので民事訴訟法第百四十条の規定により自白したものと看做されるところ、右事実によれば原告の本訴訟請求は正当(なお、訴状送達の日の翌日が原告主張の通りであることは当裁判所に明白である)である。

なお被告訴訟代理人より口頭弁論再開の申立がなされているが、たとえ、最初の口頭弁論期日であつても、正当の事由もなく、期日の変更さへも申出ず、期日を懈怠した場合において、第一審の審理を失う不利益を受けても仕方がない。被告は呼出を受けてから口頭弁論期日まで、二十日間の余祐があつたのに、何等応訴の準備もしなかつたのであり、口頭弁論の終結をみて、再開申立をしても手遅れである。或は被告が法律の専門家でないし、訴訟に慣れないことからして、被告に苛酷な取り扱いだと考えるかも知れないが、訴訟の領域においては(訴訟のみならず、たとえば手形法、会社法の如き技術的法律についてはすべて同様であるが)右の如き理由で、法律の規定の適用を二、三にし、相手方に迷惑をかけることは許されない。法を知ると否とを問わず、法の前には平等の取扱を受けることは、当事者の権利であると共に、特に平等以上の利益を享受できない意味で義務でもある。本件口頭弁論再開申立はこの意味で不当なものであり、第一審裁判所としては、かくの如き申立による訴訟遅延防止の見地から(上訴の場合、被告が新に攻撃防禦をなし、そのため上訴審における審理が手間取ることとなつても、そのことを考慮するあまり、第一審における第一回の期日の懈怠が、懈怠者の当然の権利化する虞れがないわけではない)前示申立を却下した上、本判決をなすものであることを附言する。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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